映画レビュー

ワンカットで再現された緊迫の72分。映画 『ウトヤ島、7月22日 』のレビュー

2011年7月22日にノルウェーで起こった悲しい出来事についてご存知の方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?

日本では東日本大震災からあまり日が経っていなかったこともあり大ニュースとして取り上げられていなかったように思うのですが、ノルウェーはもちろんのこと世界に衝撃を与えた連続テロが起こりました。

レビューの前に: 事件の概要について

単独犯のテロによる死傷者数は戦後史上最大の77人。(日本最大は19人が犠牲となった相模原障害者施設殺傷事件
政府庁舎爆破事件により8人、ウトヤ島での各政党ごとにある青年部(エリート予備軍)労働党のサマーキャンプをターゲットにした銃乱射事件により69人が命を落とし100名以上が重軽傷を心にも身体にも追いました。障害を抱えた生活を強いられている生存者もいます。
また、生存者の1人は現在のオスロ副市長(2019年)だそうです。

 

犯人はノルウェー人のアンネシュ・ベーリング・ブレイビク(Anders Behring Breivik)

極右思想の持ち主で民族的に不純である国を正常化すること、マルチカルチャリズム (多文化主義)を滅ぼすことを目的に犯行に及んだそうです。
政府庁舎に爆弾をしかけた後(ウトヤ島への救助を遅らせる目的と言われています。)、警官の出で立ちでウトヤ島に「オスロでテロがあったので警備のためにやってきた。」と上陸し72分感で540発の銃声を轟かせます。
現在禁固21年の刑で拘留中。反省の兆しがないので期間は延びるとの見方が強いようです。
ちなみにノルウェーに死刑制度はありません。

 

 

 Utøya : July 22のレビュー

撮影は主人公カヤ(モデルはいませんが何人ものインタビューを元に作られたオリジナルのキャラクター)の行動を追うような形でワンカットで撮影されています。
実際と同じ72分間の切れ目のない映像は自分がその場にいるような緊迫感に包まれます。
数えてませんが(そんな余裕はない)銃声も540発と同じ回数だそうです。
音響も非常に計算されており、まるで自分がその場で身を潜めているかのよう。

ここまでの臨場感の再現はやめてぇ〜と思いながら全身の毛が逆立つ勢いで鑑賞しました。

 

※ここから先はネタバレが含まれます。※

引き返す方にもとりあえずお伝えしたいのはMVPは ”蚊” !!  カメラマンとの息もぴったりで最高の仕事してます。

 

U – July 22というタイトルの国もあります。U – boatみたいだから私はこっちの方が好き。

 

さて、ブレイビクは最初警官姿で

「こちらへおいで。大事なお知らせがある。怖がることはないから。」
と呼びかけて若者を集めて整列させてから、銃を乱射したそうです。14人がこの時に亡くなったのだとか。

カヤはその中にはおらず
「オスロでテロがあったらしいよ。」と談笑している中で銃声を耳にし、全速力で逃げてきた仲間を見て同じく建物の中へと逃げます。

これはあくまでも私見ですが、構想段階では最初の銃声が放たれる様子の描写を考えた人もいたでしょう。

ですがこの映画、ブレイビクの姿はほぼ見えません!

銃声の大小や彼の影で感じる犯人のそれは臨場感に溢れており、顔が見えないことが恐ろしさを助長しています。

余談ですがNetflixで見ることが出来る 『July 22』ははじめ、ブレイビク目線で話が進んでいきます。が、事件のその後にフォーカスしているため子ども達が撃たれていく様子は少なめです。
2時間越えの大作ですがオール英語で弁護中の専門用語が使われた会話など、私のスキルでは追いつかなかったのでレビューについては控えますが情報量はみっちりあるので興味のある方はどうぞ。
ちなみにUtøya : July 22についてはアイルランドの田舎町で1日だけ上映される日を狙ってノルウェー語を英語字幕で鑑賞しました。

 

様々な人種の若者達が迫り来る恐怖に怯えるリアルな描写

演者はアマチュアを揃え、リハーサルに3ヵ月を費やした後にロケ地の島へ移動。
1日1回のテイクで5日間の本番の撮影を行われました。
4日目、例のMVPの蚊とカメラマンが大仕事を成し遂げたテイクが採用されたそうです。

監督はノルウェー人のエリック・ポッペ。
どんな表現方法が正しいのかを40人もの生存者や遺族らをの協力を得つつ、警察の記録などの事実を組み合わせて脚本を書き進めたとのこと。

キャンプの参加は約700人とのこと。69人が亡くなり100人以上が負傷。心に大きな傷を抱えても全く不思議ではない状況で40人という数字はかなり多いのではないでしょうか?

エンドロールでは ”エキストラの皆さん” ではなく全員のフルネームをざっくり200人程確認できました。ノルウェーの総人口は500万人程(北海道と同じくらい)。その中で優秀なアマチュア俳優を人種のバランスを考慮しながら1年かけて探し集めた監督の彼らへのリスペクトにもブラボーです。

また、トラウマを乗り越えて悲劇を伝えていく生存者や遺族の姿勢は、エリート予備軍のフィルターをかけずとも臭いものには蓋カルチャーの某国出身の私としては尊敬したいところ。こういう人たち、日本だといじめられそう。

 

閑話休題

 

主人公カヤには一緒にキャンプに参加する妹がおり、おせっかいカヤねえちゃんはうざがられています。
そんな姉妹あるあるを経た後に銃撃発生!

正義感の強いカヤは逃げつつも見つけた所でお互い命の保証はないのにも関わらず周りの反対を押し切り妹を捜します。

文字通り死ぬ気で妹のテントに戻るとスマホだけ発見。
着の身着のまま逃げ出したことがわかった時点で無事を祈るしかないと思うのですがやっぱり捜すのをやめません。そうでなくっちゃ!映画だもの。
母親に電話するも電話口では「ぜったいにみつけるから!」ばかり。

…ちょっとアホな子なのかな疑惑が浮上します。お前の命は1つだぞと私が母親なら諭すところですがもしかしたらが繋がらなかったのかな?離島ですし。

とはいえ極限の状況で正しい判断が出来るかと言えば私にその自身はありません。
カヤと同じく妹がいますが、お母さんのお腹の中に運動神経を置き忘れたのかな?と思える程に身体能力の差が顕著です。
体育5を常にキープしていた妹なので(私は1か2)自分の保身に尽力するかあわよくば助けを乞うでしょう。パニックで叫んで犯人をおびき寄せ、銃口を向けられて終わるかも。
生存者の中には対岸まで泳いで生還した人もいるそうですが泳ぎ上手の小泉八雲おじいさまの血も引き継げていないので多分死んじゃう。ダメ姉です。

 

カヤ、渦中のウトヤ島で歌声を披露

事件後のトラウマを克服すべく冗談を言いあったり歌を歌いながら心を回復していく生存者のさまをモチーフにしたようなのですが、そりゃないってば。

歌声を聴いたひっそり隠れている友人に声をかけられて

「どこにいるの?」と岩陰を飛び出したところを狙われて The end。タイミング良過ぎですが、映画だもの。

直前の会話では「帰ったらケバブ食いてー。」な男の子に向かって将来の夢は首相になることなんて言ってましたが、叶わず。ケバブくんは無事生還してカヤの妹が既に乗っているボートで救出されます。うまくやってたじゃん。

 

日本版のサブタイトルでは若干ネタバレしています。

私の夢は、もう叶わない。

「この子死ぬんだな。」っていうのが暗喩されてるポスターって、どうなんでしょうか。
原題のサブタイトルは ”The day that changed us forever”

直訳すると
『その日が私たちを永遠に変えた。』

…捻り過ぎたのでは。

極限状況で最適な判断が出来ない人はリーダーになって欲しくないなぁなんて思いながら観てましたが、ぬるま湯につかりながらも税金を欠陥戦闘機のために湯水のように使うどっかのリーダーもいかがなものでしょうかね。

 

話題がそれましたがフィクションとは言え様々な証言を元にリアルをとことん追求したこちらの映画Utøya : July 22。

 

今のテクノロジーを使えばあらゆる描写をリアルに表現できます。
この作品においては亡くなっていく少女の顔色の変化はおそらくCGで加工されており、血の気がこちらも引く程に引き込まれました。あの若さでの凄まじい演技力も相まって。(酷評しているようですが主人公の演技も体力もなかなかです。)

本編では血まみれでしたがめちゃかわいい Solveig Koløen Birkelandさん。

しかし時間の感覚については実際の長さで表現することが観客に伝えるにはベストでしょう。

事件の発生から収束までに実際にかかった72分間を銃声の数まで再現しながらリアルタイムで緊張感溢れる描写のこの映画の娯楽度はほぼ0%。
誰彼におすすめできるものではありませんが、日本以外の世の中を知ることで見えて来るものは少なくともあるはずです。

右傾化が懸念されている昨今、頻繁に耳にする日常の気軽なヘイトスピーチや陰謀論が行き着く先なのでは?と1/16ヨーロピアンな私は穏やかではいられません。

そういえばウトヤ島のテロの8年後、2019年のニュージーランドのモスク襲撃犯もブレイビクに感化されたのだとか。

ちなみにブレイビクはモノカルチャーの国であることから韓国と日本に興味を持っているそうです。

ドイツだと捕まるこのポーズを法廷でやってのけるブレイビクには世界中にファンがいます。

 

有名になると誰にでもファンってついちゃうものなのかしら。市橋達也然り。(ヤングな方はググってね!)

日本なら死刑を免れないであろうブレイビクはプレステのアップデートを要求したハンガーストライキまで行ったのだとか。おいおい。
部屋もわたしんちより広いし、何様なんだこいつ。

心酔する人もどうかしてるって思っちゃうけど、とにかく日本語でレビューを書いた以上世界に目を向けて右傾化している現状について考える人が増えれば良いなと若輩者ながら思います。

 

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ABOUT ME
守谷 天由子
ギリシャとアイルランド人のハーフである明治の文豪、小泉八雲 (Lafcadio Hearn) の孫の孫の守谷天由子(もりやあゆこ)です。 文系か理系かと言われるとアート系のジュエリーデザイナー。 八雲と同じく異文化に触れる旅やウィスキーが大好き! 2017年に5カ国に渡る足跡ツアーを4ヶ月かけて自力で回りました。 アイルランドの田舎から八雲エピソードを交えた備忘録や海外お役立ち情報などをお届けします。