ジュエリー

令和のロードオブザリング〜ジュエリーデザイナーが自分達のために作った指輪の話 第1章〜

明治の文豪小泉八雲ことラフカディオ ハーンの玄孫の守谷あゆ子です。

令和元年の秋に八雲の父親の故郷であるアイルランド出身の男性とご縁があり結婚いたしました。

国際結婚ということもあり、それに伴う様々なリサーチや面倒な手続きを綴っていくことが(特にこれからアイルランド人と結婚なさる方には特に)有益だと思うのですがこの手の情報は日々変わるのが実際。

ということで、個人的に一番本気(マジ)で悩んだお話をします。

ジュエリーデザイナー、自分達用にマリッジリングを作る

ジュエリーの専門学校を卒業してからコスチュームジュエリーにヘアーアクセサリー、パッケージデザインに舞台衣装、自身で立ち上げたApocaθistというブランドではアップサイクルジュエリーを作っていますがそんな中でも何度か個人的に結婚指輪や婚約指輪にも関わるなど実に多岐にわたるジャンルでお仕事させていただきました。

そんな私ですが実は婚約指輪(エンゲージ)どころか結婚指輪(マリッジ)もなくてもいい派だったりします。

とはいえ相手はカトリックの国の男性。
基本的に夫はアンチカならぬアンチカトリックカルチャーではあるのですが指輪欲しいかのリサーチをしたところ

「オフコース!」

絶対欲しいみたいです。


特に男性はワイフ持ちのステータスの方が何かと社会的に優遇されるのはこちらでも同じですし、欲しいと言ってもらえるのは意外と嬉しかったです。

どんなリングがいいんだい?

「シンプルなの!ずっとつけるから!」

…シンプルって言ったって横から見たら∞マークみたいになってるのとか、ラインが彫ってあるとか色々あるんだけどなぁ。

そもそも幅とか厚みに加えて平打ちなのか甲丸とか両甲丸とかいろいろあるんだけど、サイズはわかる?

「知らない!指輪なんてしたことない!人生初めてのリング!」

ウキウキしてるところ申し訳ないんだけどさ、サイズ調べにジュエリーショップ行こうね。
ゴールドがいいのか、プラチナがいいかとかわからないでしょ?ちょっと試したほうがいいよ。

「そんなのどっちでもいい!アユコが好きな方。できるだけお揃いのデザインがいい!」

できるだけお揃いのデザインがいい

意外と夫の希望が多くなってきます。

曲がりなりにもデザイナーなので、せっかくならちょっぴりひねったデザインに憧れがなきにしもあらず。(例:四角い腕とかかわいいと思ってました。)


ただ、前述の通り夫はずっとつけたい派なので絶対歪む上記のデザインはデザイン画を書くまでもなく却下。

とにかくサイズがわからないことには全くデザインの作業に入れないので家からバスで30分の場所にあるジュエリーショップに行きます。

夫、事故るの巻

打ち合わせを怠った私も悪いのですが店員さんの「May I help you?」への返しが最悪でした。

「彼女はジュエリーデザイナーなんですがこの度私たちのウェディングリングを作ることになりまして。本日はサイズを測らせていただきたく参りました。」

アホすぎる。

(とはいえ嘘がつけないのは夫の良いところ。プラマイプラスと思い込んでいます。ええ。)

店員さんも苦笑い。
暇そうだったのが幸いでした。

申し訳ない気持ちを前面に出しながらリングサイズを測らせていただいたり、シンプルがいいとは言いつつも幅のバランスをこっそりチェック!

また、せっかくなのでと見積もりを出していただいたり一銭にもならない仕事をさせてしまいました。ごめんなさい。

ちなみに夫はゴールドで幅太めの厚みもしっかりあるタイプがお気に入りのようでした。(ヲィ!)

UKサイズでQ、日本サイズで17号と女性でもありえなく無いサイズの指の細さなのでデザイナー目線ではゴツめのリングはあまり似合っていないのですが、とりあえず「はいそうかい」と返事をします。

アイルランドのマリッジリング事情

職業病というか、人の手元はどうしても見てしまうのですがアイルランドはもちろんのこと、欧米の方々の結婚指輪は日本と比較するとデザインのバリエーションがありません。

マリッジとエンゲージを兼ねたダイヤ入りの普段使いしやすいデザインなんて日本だとそれこそいろんなブランドで出してるんですが、そういえばアイルランドで見たこと無いかも。



ジュエリーショップでもマリッジリングのコーナーは一文字(指にしたときに上から見てまっすぐ)で甲丸(リングアームの断面がかまぼこ型)と平打ち(断面が長方形)の幅と厚みのバリエーションしかありませんでした。

この国でマリッジをつけるならシンプルに越したこと無いというか、ファッション性よりも宗教的なアイテム、誓いの証としての意味合いの強さを感じざるをえません。

マリッジリングのデザインひねるの、ダサい?

でもでもでもでも、曲がりなりにもデザイナーなので(くどい)何かしら工夫したいんです。

とりあえずシンプルを乗り越えたデザインで一番私がつけたいマリッジが両甲丸(別名オーバル、内甲丸。リングアームの断面が楕円。)なのでそれを踏まえてデザインに入ります。

ちなみに丸線(断面が真円)のものもおしゃれだし指馴染みが取られてるからつけ心地もでいいので一瞬候補に挙がりましたが、何かあった時に売られにくいよう内側に刻印を入れたいと思っていたので一文字マリッジに関してはオーバル一択でした。

できるだけお揃いのデザイン(くどい)

ちょっとバックグラウンドの話をします。

結婚したのは2019年の11月ですが、その年の5月に夫の暮らすアイルランドを離れてギリシャを2ヶ月ほど小泉八雲の母であり私のひいひいひいおばあさまのローザ カシマチのゆかりの地を巡った後、日本で結婚と移住の準備を進めるという時差8〜9時間で離れ離れの期間が半年ほどありました。

リングサイズ変わってないといいなぁ。
それとアイルランドのジュエリーショップのリングゲージが平打ち型だったから両甲丸だと肉が逃げる分少し小さめでつくらないと!

そして一発目からゴールドで作るの恐ろしすぎるわ!


ということで、とりあえずプロトタイプをシルバーで1号小さめに作ってサイズやつけ心地を確認しつつ ”できるだけお揃いのデザイン” を目指します。

マリッジリングを手作りしてみよう!

“できるだけお揃いのデザインがいい!”
をクリアするために、私は考えました。

同じ銀線から作ろう!

短い方が私用。長い方が夫用です。
この段階で断面は真円で叩いて伸ばしていくので本来欲しい長さよりも短めにカットしてわっかにしていきます。

長さは、勘です。

フープ状に成形して継ぎ目をつなぎます。

まだ同じ太さ。小指にさえ入りません。

リング専用の道具で丸くして叩いて欲しいサイズに持って行きます。

これはぴったりはまったのが嬉しくて撮影したもの。

とはいえまだまだ薬指にはめるには小さいです。

目的のサイズに到達しました!
あからさまな手仕事の後が見えるのでここからピカピカに磨きます。


つけるとわからないけどちょっとハンマーの後があるよ!ぐらいで仕上げてみました。

手仕事の後を完璧に消すのは(面倒とも言えるけど)悔しいですし、何より話の種になるので。ね!

できたてほやほやでウェディングフォトに挑む


ちなみに私は作りながらつけ心地重視で指の肉の逃げ方や厚みを微調整しながら何度も何度も指を通したので本心を申し上げるとあまり感慨深くありませんでした。

これを見ている人の中でジュエリーを作るお仕事をなさっている人がどれだけいるかわかりませんが、作るスキルがあっても頼んだ方がウキウキするので自作はお勧めしません笑

肝心の夫ですが例の事故った日から半年の間に痩せたのか、15号になっていました。

手が綺麗で羨ましい。


この日は結婚のための18日間の来日のなんと2日目、到着の翌日だったので話せていなかったのですが、上記一連の”できるだけお揃いのデザインがいい!” を踏まえて無駄に手間をかけて同じ銀線から作られた指輪だという話は喜んで聞いてくれました。
余談ですが夫はウェールズのカレッジで金属彫刻(私より大きいものしか作ったこと無い。)を学んだのでハンマーテクスチャーも愛おしがってくれています。

ちなみにこの作り方だとシルバー自体の強度も鋳造に比べて保てるのでガサツな夫にはぴったり!と思っているのは内緒。

こうしてみると苦労した割に本当にシンプル


余談ですがアイルランドでも日本やアメリカ同様、結婚指輪は左手の薬指につけます。
ドイツやロシア、いくつかの東欧の国では右手の薬指なのですが、私のルーツであるギリシャでは婚約中は左、結婚したら右と特殊なんです。

小泉八雲に関して、1度目の黒人女性との結婚のときは不明ですが結婚自体当時は違法だったので指輪もわざわざしていないのでは?というのが個人の見解です。
2度目のセツとの結婚のときは写真で見る限り指輪は見当たりません。
日本が西洋を目指してばかりいることにストレスを感じていたようなので西洋のカルチャーである婚約指輪や結婚指輪はわざわざしなくてもいいという考えのような気がしています。
そもそも、日本人が結婚指輪をするようになったのは主に戦後からですしね。

ロードオブザリング、第2章へ

さて。

出来上がったと思ったらここからが私の本気(マジ)で悩んだストーリー。

ジュエリーについての知識がより深められる内容となっているのでぜひお読みくださいませ。

令和のロードオブザリング〜ジュエリーデザイナーが自分達のために作った指輪の話 第2章〜 第2章の前に すでにシルバーでプロトタイプを作ったのですがそれについての記事はこちら。アイルランドのマリッジリング事情についても...

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守谷 天由子
ギリシャとアイルランドの両親を持つ明治の文豪、小泉八雲 (Lafcadio Hearn) の孫の孫の守谷天由子(もりやあゆこ)です。 文系か理系かと言われるとアート系のジュエリーデザイナー。 八雲と同じく異文化に触れる旅やウィスキーが大好き! 2017年に5カ国に渡る足跡ツアーを4ヶ月かけて自力で回りました。 道中出会ったアイリッシュ夫と海辺の町で暮らしています。